Brighter Than Creation's Dark

Brighter Than Creation's DarkBrighter Than Creation's Dark
Drive-By Truckers

New West 2008-01-22
売り上げランキング : 53680

Drive-By Truckersの通算8枚目(スタジオ7作目)。プロデュース・ミックス・エンジニアリングは、最早バンドとは切っても切れない存在David Barbeが担当。擬似2枚組というスタンスで製作されたのか、大量のマテリアルが用意できたからコンセプトを用意したのかは定かではないが、本作は結果として19曲収録の擬似2枚組仕様の作品となっている。それらの楽曲の中には、『Decoration Day』からピンポイントで挿入されてきた、男の歌声を聴く事は叶わない。変わって、女性ベース奏者のShonna Tuckerが3曲でリードを取るようになっている。彼女の楽曲が、彼の穴を完全に埋めているかと問われると、100%そうだとは言い切れない。しかし、荒削りではあるが、次への期待を持たせる物はあると思う。彼女の3曲を抜いて16曲で良いじゃないかと言われれば、それまでかもしれないが。
本作では、ギターを歪ませる従来どおりのDrive-By Truckersを感じさせる楽曲も収録されてい。しかし、10年選手になったバンドが本作でリスナーに示してみせたのは、ギターのボリュームを下げる事であり、ディストーションの裏側に潜んでいた自身のルーツを曝け出すという行為。それは、ハードなギターサウンドのみに拘泥しないバンドの懐の深さを、改めて自身の作品で証明した形と言えるでしょう。
Mike Cooleyのバンジョー、John Neffのペダルスティールを印象的に配したオープニングトラック「Two Daughters & Beautiful Wife」では、死んだ男が現世に残してきた妻と2人の娘へ思いを巡らせる。のっけから歌の主人公が死人という、爽快感とは縁の薄い感じが最高ですね(笑)。
Hood作のM6「Daddy Needs A Drink」では、Spooner OldhamのウーリッツァーとJohn Neffのスティールを配し、穏やかで抑えたメロディの中、アルコール中毒の親父について子供の視点から歌う…向こうのレビューでJohn Prineの「Sam Stone」が引き合いに出されていたけど、ある意味この曲も解釈によっては後述する反戦歌というニュアンスを含んでいるのかもしれない。
便宜的にはサイド3のオープニングトラックとなるM11「Lisa's Birthday」では、酔っ払った女性のタクシー代わりに呼び出される駄目男の姿が、ホンキートンクカントリーなフィールに乗って展開されていく。意外とMike Cooleyのヴォーカルが様になっていて良いんです。
続くM12「That Man I Shot」では、イラクでの血に染まった拭い落とすことの出来ない兵士の記憶を描く。そこにあるのは、独りよがりな善行への警鐘。ヘヴィなサウンドで、従来通りのDrive-By Truckersの音と言えるかもしれません。同様に反戦をテーマにした収録曲には、同じくHood作のM14「The Home Front」という曲も。前述の「That Man I Shot」で描いた前線の苦悩と共に、タイトル通りに銃後に残された人間にスポットを当てる。この2曲での感触は、Bruce Springsteenが描いたベトナム戦争時代の世界観にも通じるのではないでしょうか。30年が経過して、再び同じ箇所を病むアメリカという、因果な図式が成り立つのも面白い。
本作には、明るい世界が広がっているとは、到底思えない。先行きの明るくない世界の中で、血と硝煙の匂いに塗れ、酒に溺れ、恋に破れ、重くのたうち回る人生模様を、音楽という名のキャンバスに叩きつける。音の角は丸くなったのかもしれないが、表層的な尖り具合では推し量れない、鋭さを秘めた音楽が展開されていく。