Patty Griffin

buppy2007-12-24

Patty Griffin 『Children Runnning Through』

「米国で最も孤独な少女」という形容を誰が使ったのかは定かではないが、非常に正鵠を射たPatty Griffinのイメージだろう。共同プロデューサーにMike McCarthyを置いた本作では、その少女の様に透明でナチュラルな声はそのままに、より芯の強さ…力強さと置き換えても良いだろうか、上手く言葉にし辛いのだが、感覚的にそういった変化を聞き取れる。それを、Michael Longolia・Doug Lancio・J.D. Fosterといった、いつものバンドメンバーが感じ取り、作品にも反映されているのかもしれません。
M9「Up To The Mountain (MLK Song)」は、タイトルからも明らかなようにキング牧師を題材としている。この曲の曲想を得る上で下敷きとなったのは、彼の暗殺前日のスピーチ「I've been to the Mountaintop」だと推測される。ピアノとストリングの中、約束の地へと誘う力強いPatty Griffinの歌声。その絶妙な感情のコントロールの歌唱も相俟って、Patty Griffin流ゴスペルの一つの到達点と言えるかもしれません(Solomon Burkeの『Nashville』収録のカヴァーさえ、彼女のオリジナルの前には霞んで見える)。そういった曲の一方で、「君の笑顔を見る為だけに生きている、それだけで十分」と、ともすれば安く聴こえてしまうフレーズを含むM6「Heavenly Day」のようなラヴソングを、ごく自然に厭味なく歌う懐の深さ。それら2曲では、Ian McLaganによるピアノも非常に印象的で、キーボード演奏ではないMcLaganの魅力を改めて感じる。抑えた演奏で魅せる曲ばかりではなく、M4「Getting Ready」やM7「No Bad News」のようなアップビートな曲で、作品全体に破綻を来たさない緩急を生み出す。それは、彼女の地力を証明する何よりの物ではないか。
名盤や傑作の言葉が安売りされる中で、本当にその言葉に沿った物がどれだけ存在するのかは分からない。しかし、彼女のキャリアの一つの終着点であり、同時に始発点とも言える本作が持つ佇まいは本物ではないだろうかと、私は思う。