Eilen Jewell

buppy2007-12-23

Eilen Jewell 『Letters From Sinners & Strangers』

27歳、アイダホ生まれの女性SSW、Eilen Jewellの2nd。奇しくもこの周辺の年齢のミュージシャンが、ここ数年表に出だした。確実に新しい世代のミュージシャン達は育ってきている。日本のメディアでは黙殺されているとしてもだ。
14歳の時、彼女のお気に入りになったのは両親のレコードコレクションの中にあった、Bob Dylanの『Bring It All Back Home』とHowlin Wolfのサンレコード時代のアルバムだったという。偶然か必然か、そこからBessie SmithやBillie Holidayへと導かれていった彼女は、10代の頃に影響を受けた音楽を自身のフィルタを通して表現してみせる。
Alec SpiegelmanによるクラリネットとEilenのスモーキーなヴォーカルが恍惚状態を演出するジャズブルーズM2「High Shelf Booze」。キング牧師の1965年の「How Long? Not Long!」演説からインスパイアされたM8「How Long」では、絶望と微かな希望の揺り返しが、倦怠感を伴ったバッキングの中に泳ぐ。それらの全てに、ジャズ・フォーク・カントリーの要素が組み合わさった確かな演奏が息衝く。カヴァーもオリジナルも境界線の無いままに、一つの流れの中で進む孤独な少女の物語が一糸ずつ編み込まれていく中、明るさを増した音は、表面的な明るさ以上に、要所要所で見せる陰を濃密に浮かび上がらせるという点で、非常に効果的な役割を果たしていると言えるだろう。
自身で作曲・演奏において重要視するのは「Space」と言う彼女の意図を解し、体現できるバンドメンバーとの邂逅という幸運。Lucinda Williams・Gillian Welch・Norah Jones等の表立った商業的成功という追い風。複数の要素が絡み合いながら、宝石のような煌びやかさとは異なった、陶器のような味わいある輝きを放つEilen Jewellの音楽は世に出た。そこにある確かな個性を、今この瞬間に耳にする事無く終わるのは、あまりにも寂しい。