buppy2010-03-17

Will Kimbrough 『Wings』

Will & The Bushmen、The Bis-quitsと80年代頃から活動を開始し、その後Todd Sniderの周辺等、イースナッシュヴィルで活動。Brad Jonesと共に、イースナッシュヴィルを支えるサイドマン・裏方という見方が、やはり自分の中では強かったんですよね、Will Kimbroughって。彼のプロデュース作品やサイドマンとして参加した作品が印象に残る機会が多かった事もあって、自分の中でそんな見方になっていたのかもしれません。
この新作『Wings』では、全体的に抑制を効かせて、Kimbroughのアコースティックギターと歌を軸に、素朴でフォーキーな味わいの楽曲が多く収録されています(フォーキーというかSSW的なニュアンスが強くなっているのは、Tommy Womackと結成しているDaddyでの活動が、バンドサウンドの捌け口として機能しているのかもしれません)。『Americantis』〜『(EP)』辺りから見せていた、贅肉を削ぎ落としたスタイルが、最高の形で昇華された格好でしょうか。そこから透過して来る彼のメロディメーカーとしての資質の高さには、Will Kimbroughを甘く見ていたな俺という思いに駆られます。
3人の娘を天使に喩え、家族への愛情を綴ったオープニングトラック「Three Angels」の満ち溢れる穏やかな空気は、聴き手を幸せにしてくれます。
ハーモニカの音色が印象的に響くM3「Wings」には、バッチリと涙腺を刺激されます。フォークシンガー的な姿を見せながら、親しみやすい雰囲気のメロディが印象的なこの曲はJimmy Buffettとの共作曲。Buffettの昨年リリースの『Buffett Hotel』にも収録されていますが、Kimbroughのバージョンの方が、個人的には好みです。
M4「Love To Spare」では素朴かつ真摯に言葉を紡ぐ。ナッシュヴィル界隈に多く生息する田舎ビートルズ達の真骨頂というか何と言うか。生の感情をぶちまけつつも、ロマンチックな比喩表現をサラリと詰め込む感傷的なバラッドで、海外評ではJohn Lennonにも喩えられたりしています。
Dave Zoblとの共作曲M8「Open To Love」では、Jim HokeやSteve Hermanによるホーン、女性コーラス、ハモンドが配され、メンフィスソウル風味のアプローチを見せる。交流のあるGwil Owen辺りも得意とするところで、彼がこのスタイルを取ったとしても何ら不思議ではないです。
その他にも、ドロッとしながら妙にクールな雰囲気のTodd Sniderとの共作曲「It Ain't Cool」辺りも聴きどころでしょうか。
前作『Americantis』でのコンパクトな楽曲のぶち込みっぷりも嫌いではなかったですが、曲数を絞った本作の方がアルバムとしての完成度という点では、本作が勝ると思います。40分弱の時間の中に、様々な姿の人生が顔を覗かせる。彼のソロキャリアにおける最高傑作と断言しておきます、現在のところは。