buppy2010-03-19

Mark Erelli 『Little Vigils』

街から街へと、アコースティックギターを抱えてツアーに明け暮れる毎日。99年のデビュー以来、コンスタントに作品を発表し続けるMark Erelliの通算8枚目になるスタジオ作『Little Vigils』が到着しました。長らく在籍していたSignature Soundsからのリリースではなく、自身のレーベルHillbilly Pirgrim Recordsからのリリース。
プロデュースは前作に引き続き、Josh RitterのバンドのバンマスZach Hickmanが担当(しかし、この人の如何わしい髭って、どうなんだろう…)。バックには、Hickmanを筆頭に、Crooked Jadesのマルチ弦奏者Charlie Rose、Erin McKeownとの仕事で知られるNeil Clearly、自らもSSWとして活動する弦奏者Jake Armerdingといった、Zach Hickman人脈の東海岸の主にブルーグラス畑の精鋭部隊を従えての録音です。
牧歌的な味わいのオープニングトラック「August」は、自然の近くで暮らすErelliの、現在の生活が生み出した楽曲でしょう。ほんの少し、物質社会への皮肉めいたニュアンスも覗かせています。
哀愁と追憶に彩られたホーボーソングM4「Columbus Ohio」では、彼のフォークシンガーとしての魅力を改めて感じる仕上がり。
還らないあの日、16歳の時、地下室に置き去りにしたロックンロール。音楽が自分を救えたあの日には、もう戻れない…と、重松清の小説的な世界観を覗かせるM5「Basement Days」。詞の世界に合わせるように、懐かしくて青臭くて瑞々しいメロディが踊る。コーラス部分で、Who・Stones・Dead・Beatles・Allmans等の有名曲が飛び出して来る辺りは、何とも言えず良い具合です。
全編参加のZach Hickmanに加え、Liam Hurley・Sam Kassirer・Austin Nevinsを加えて、バックが完全にJosh RitterバンドになっているM9「Same For Someone」は、Erelliの父親としての眼差しを多分に含んだ1曲でしょう。厳しい世界へと、何れは一人で旅立つ息子へ、そして息子から誰かへと繋がるバトンを託す、そんな思いを感じる穏やかなフォークロック調の作品。
オクラホマの詩人Jim Chastainの詩に曲をつけたM10「Coming Home」。癌に侵され亡くなった彼の綴った「I'm Coming Home」の言葉に込めた思いを汲み取りながら、詩に新たな表情を付加するErelliの朴訥で誠実な歌い口、アコースティックギターバンジョーフィドルの簡素な編成が、グッと来る。
目新しさだけが音楽ではない事は、百も承知ですが、改めてそんな気持ちを強くした1枚です。