I'm A Father's Son...

Midnight at the MoviesMidnight at the Movies
Justin Townes Earle

Bloodshot 2009-03-03
売り上げランキング : 52423
おすすめ平均

後付になるけれど、彼は、誕生した時から、ミュージシャンになる宿命を持った男だったのかもしれない。彼につけられた名前は、それだけ重い十字架を背負っている事と同義なのだから。彼のミドルネームであるTownesは、父親Steve Earleの師匠にして友人と言える、故Townes Van Zandtから取られているのは、あまりにも有名な話だ。多くの二世ミュージシャン達が、親の名前だけで、押し潰されそうになる中、彼はもう一つの名前との戦いを経験しているのかもしれない。
寄り道や曲がり道の多かった、決して順風満帆とは言えない、彼の経歴についても少しだけ触れておこう。10代の頃には、ナッシュヴィルで、ロックバンドThe Distributorsと、ブルーグラス影響下のコンボ編成バンドThe Swindlersを掛け持ちし、音楽活動に明け暮れる(現在の彼の作品に参加する見慣れないミュージシャン達は、この時代の連れなのかもしれませんね)。その後、父親Steve EarleのバンドThe Dukesの一員として活動を共にするも、父親Steveと同様に、重度のドラッグ過に陥り、The Dukesから解雇を通達される。20代前半でドラッグからの脱却のため施設送りとなった彼の、脱却の過程こそが、彼の現在の音楽を形成してくとは、何とも皮肉な話である。自身を見つめなおす時間を得た事が、彼の人生観や、ソングライティングに何かしらの影響を及ぼしたのは、想像に難くないところだ。『Yuma』や『The Good Life』、そして本作へと繋がる、ブレの無い音楽の形成、幸福と不幸の表裏一体の関係を感じずにはいられない。もしもや、たら・ればの話をしても詮無い事だが、Justinが、もしも順調にThe Dukesの一員としての活動を続け、ソロでのキャリアをスタートさせていたとしたら、現在の彼の音楽に出会えていたろうか。また、Old Crow Medicine ShowやLuceroの面々、Jason IsbellやDustin Welchといった近しい世代のミュージシャン達との交流はあったのだろうかと。
さて、話が横道にそれてしまったが、本作の参加メンバーについて。R.S. FieldとSteve Poultonのコンビによるプロデュースは前作から変わらない。参加ミュージシャンも前作に参加していたメンバーを中心に、絞込みを行った。実際、鍵盤のSkylar Wilsonは、担当楽器以前にバンドリーダーとしてクレジットされている点から、纏まりを意識しての事かもしれない。そんな参加メンバーの中で、リーダーSkylar Wilsonの存在以上に、サウンド面において核となっているのは、バンジョー・マンドリン・ハーモニカ等をこなすマルチプレイヤーCory Yountsではないかと、個人的には思う。収録曲中の印象的なトラックなのか、彼の演奏する楽器の響きが曲を印象的なものにしているのかという程に。
作品全体の印象としては、1st『Good Life』以上に、自身の内面に沈み込むような感触だ。それは、M4「Mama's Eye」のような、彼自身の家庭事情を滲ませる曲が、そんな印象を強めているのかもしれない。内省的ではあるが、彼の二親に対する思いやスタンスを、入れ込み過ぎずに、サラリと歌いきる。その辺りの絶妙な感情のコントロールと、Justinの甘く端正な歌声が、単なる独白に終わる事なく、楽曲としての魅力を増幅させる。
そして、収録曲中印象的なのが、The Replacementsのカヴァー「Can't Hardly Wait」だ。オリジナルの印象的なリフがマンドリンに置換された曲に引き込まれる。思わず、『Pleased To Meet Me』を引っ張り出して、久しぶりにオリジナルを聴いてしまったよ。ホーンが絡み華やいだ印象のThe Replacementsのヴァージョンから、Paul Westerbergのソングライターとしての旨味を殺さずに抽出してみせるセンスは流石。尚且つ自身のフィールドへ引っ張り込んだJustinのヴァージョンは、多くのミュージシャンが忘れた頃に手を伸ばすThe Replacementsのカヴァーの中でも、かなり秀逸な物じゃないか。
作品としての纏まり、一因としては、前述した参加メンバーの絞込みというか、中心メンバーを核に据えたバンド編成も影響しているのだろうか。ミックスをRichard McLarinに統一した事も起因しているかもしれない。まあ、全ての歯車が、円滑に噛みあいを見せた結果なのだろう。とにかく、相変わらず、潔い収録時間の短さにはグッと来るし、小細工無用という心意気を感じる。ヴィンテージなカントリーサウンドを軸にしながら、確かにJustin Townes Earleは、現在の彼にしか出来ない音楽をやっている。Townesでもない、Steveでもない、Justinの音楽を。