Caroline Herring

buppy2008-12-23

Caroline Herring 『Lantana』

音楽を聴いて涙腺が緩む瞬間というのはあるんです。別に悲しい曲ばかりやっている訳でもなくて、事実を事実のまま綴っているだけなのですが。コレを聴いて和めないんですよね…もうボロボロ泣いてしまうんです。今でも、鼻水垂らして涙目で聴いてますよ(笑)。
2003年にリリースされた『Wellspring』以来、約5年ぶりとなるCaroline Herringのスタジオ作品。育児に比重を置いて、オースティンからジョージアへと居を移してからの年月が、彼女にとって有益であったかを物語る充実した内容です。もちろん、この数年間は、完全に活動を停止していた訳ではなく、Claire Holleyとの共演ライヴ盤『Live at Saint Andrew's』や、Bloodshot RecordsのLarry Brownトリビュート盤(本作収録の「Song For Fay」の初出はこの盤。ミシシッピ出身のHerringが、Brownの小説『Fay』からインスパイアされた曲なんだとか)のリリースもあった訳ですが、それはこの際おいておいて。本作を語る上では、前作からプロデューサーを務めるRich Brothertonとの相性の良さも忘れてはならないところです(個人的には、Brotherton必殺のマンドリンが聴けないのが、少し寂しかったりもするのですが)。演奏陣も、Brothertonを中心に、ベースにはGlenn Fukunaga、フィドルヴィオラにWarren Hood、ペダルスティールにMarty Muse(Rachael Harringtonのデビュー作でも彼が参加してましたよね、そう言えば)、3曲でパーカッションとしてPaul Pearcy等など、オースティンの一線級ミュージシャンが顔を並べる訳でして。勿論、名前だけで音楽が良くなるとは限りませんが、このメンバーが集まって凡百の作品が出来るはずがないというのも、まあ自分の思いとしてありまして。そもそも、日本人の何人が、彼等の名前だけで作品を手にするかって話もあるんですけど…書いていて、悲しくなるのでやめておきます。
収録曲についても印象的なトラックが多数あるのですが、94年に起きたスーザン・スミス事件を題材にとったM3「Paper Gown」の印象は強いです。親による子殺し、子による親殺しが、日常のすぐ側に潜む社会を抉るようなテーマの選択、事実を淡々と綴るHerringの歌、一層の無常感を誘うDanny Barnesのバンジョーの音色…曲の歯車が全て噛みあったかのような一体感。その他にも、ランタナの花が蝶を惹きつける様を、子供が帰るべき家を築く母性として喩えるM9「Lover Girl」は、本作のタイトルトラックとも言える曲。彼女の女性としてのアイデンティティが何処にあるのかを、明確にした曲ではないでしょうか。