赤毛のイジー

buppy2008-09-22

Idgy Vaghn 『Origin Story』

ミズーリ州チリコシー生まれのAudrey VaughnことIdgy Vaughn(当時3歳の妹が発音できずに、Idgyと呼んでいたとか何とか)は、現在テキサス州オースティンを拠点に活動する女性SSW。燃えるような赤毛と、失敗気味の前髪が印象的なね(笑)。大学への飛び級入学、ドロップアウト、シングルマザーと、平坦とは言い難い人生を送ってきた彼女の転機となったのは、2004年にKervilleのニューフォークコンペに参加し、6人のウィナーの一人に選ばれた事だろう。波乱万丈な人生を送った人間が、必ずしも優れたミュージシャンになるとは限らない。ただ、そんな人生を歌の糧にするというのは、私にとって魅力的なミュージシャンの条件なんです。
本作のプロデュースを担当するのはPaul Pearcy(Austin Lounge Lizardsのメンバーとしての活動の他、Dixie ChicksやRay Wylie Hubbardの作品等、多数のテキサスミュージシャンのアルバムに参加している。Caroline Herringの諸作でドラムを担当しているのもこの人)。ベースはGlenn Fukunaga、各種鍵盤にRiley Osbourn・Chip Dolan、ギターにはRob Gjersoe・Marvin Dykhuis・Redd Volkaert、スティールにはLloyd Maines・Cindy Cashdollar・Guy Forsyth、フィドルにEamon McLoughlin、バックヴォーカルにはRuthie Fosterの名前が確認出来る。無名に近い新人の自主制作のデビュー作としては、破格のミュージシャン起用だが、どうやらこの辺りにも色々と裏話はあるようです。何でも、当時ウェイトレスとして働いていた彼女に、宝くじに当選した客が出資を行ったとか…真偽の程は定かではありませんが、妙に得心がいくんですよね(笑)。無論、腕利きミュージシャン達が参加しているから良いのではなく、彼女の書く曲に、彼らの過不足無い肉付けが施されている事に価値があるのは言うまでもない。
収録曲に関してもアレコレと書いておこう。M2「Dragging The River」は、痴情の縺れから男を殺した女性を描いたマーダーバラッド。妖しく響くGuy Forsythのスライドギターの音色、思わずゾクッと来るような歌詞、それらが相俟って嫌な汗が体を伝う。Riley Osbourneのオルガンの音色が印象的な母親との訣別歌M4「Good Enough」、娘に対する愛情を綴るM5「Pearl On Georgia」と並ぶ、対照的なトラックも印象的。M3「Truckstop Waitress」(Kity Catというウェイトレスが主人公だが、シングルマザーである事や、彼女のミュージシャンデビュー以前の職業等、Vaughnが自身を投影したと思しき描写が多い)や、M8「Midwestern Biography」(彼女の幼少時代、両親が経営していた農場の売却を行ったとか、そういうエピソードが下敷きになっているんだろう)では、本作の私歌集的な側面が現れる。