Sam Baker

buppy2007-12-29

Sam Baker 『Pretty World』

順位付けには、正直興味が無いけれど、今年最も聴いたアルバムという事なら、間違いなく本作。書きたい事は、以前にピックアップした時に書いているような気もするのですが、音を聴いたり、資料を眺めていると、何か書き足りなかったような気もしてきましたので、適当に改訂をしつつ行きましょう(笑)。
オースティンのSSW、Sam Bakerの2nd。プロデュースは前作から引き続いてWalt WilkinsとTim Lorschのコンビが担当。振幅の少ない、まるで語りかけるようなSam Bakerの歌声は、技巧的ではないかもしれない。しかし、一語一語を噛み締めるように紡がれる言葉は、聴き手の心に、深く重く突き刺さる。ソングライティング面では、ゴスペルやトラディショナルからの引用が印象に残る。ストーリーの中の鍵として用いられるそれらの使用法は、優れた才能を持った先達をどこか想起させる。
ゴスペル「Jacob's Ladder」のメロディ・歌詞を引用したM3「Slots」では、レノの街の地方カジノでスロットを打つ老婆の現在と過去を描写。同一人物の「Jacob's Ladder」のニュアンスの違い(老いた女性の口ずさむ「Jacob's Ladder」は、ドラッグによるトリップ症状の一種とも取れる訳で)、漂うドン詰まり感に、胸を締め付けられる。
Fats Kaplinのアコーディオン、Marcia Ramirezのバックヴォーカルに、アコースティックギターと、歌詞同様に刈り込まれた音の中で進行するタイトルトラックM4「Pretty World」(本作のプロデューサーWalt Wilkinsの奥方Tina Mitchellがソロ作品でカヴァーしているが、言葉とメロディの響きの美しさをストレートな形で表現している)。
Bakerの姉妹Chris Bakerが歌うStephen Fosterの「Hard Times Come Again No More」の一節から始まるM5「Odessa」では、絶望的な失恋と、金が有るが故に歯車の狂いが生じた男の人生を綴る。
30秒に満たないインストM9「Prelude」を挟み、Gurf MorlixのギターとSam Bakerのハーモニカが交錯するM10「Broken Fingers」、スペイン語で歌われるM11「Days」の2曲は、彼が遭ったペルーでのテロが、一つの鍵になった歌だろう。だからこそ、12月の家族の幸せな情景を切り取りながら、「美しかったあの日々」と語る「Days」での彼の言葉は、喪失感を強烈に浮かび上がらせる。
傷を抱えた人間の遣る瀬無い生き様。針穴ほどの希望への道筋。それらを照らすSam Bakerの「涙の癒し」に、思いがけずホロリと来る。

という訳で、今年の10枚はこんな感じで。仕事にやられて遅れ遅れになって、今年最後の日までかかってしまいました。Wilcoの新作、Michael Fracassoの新作、Beaver Nelsonの新作、Ryan Binghamのメジャーデビュー作(ベーシックトラックは、前作と同一と思われる節もあり、厳密に新作と言えるのか?という部分はあるけど、まあ良かったしね:笑)辺りも、忘れたくないところです。ElizaやPatty Griffinのライヴ盤やらも良いんですが、ライヴ盤を選び出すと、それだけで全て埋まってしまうので涙を呑んでます。今年は、あまり深く考えずに、自分の趣味全開で行ってます。シーンを俯瞰してません。他の人が聴けば、並な作品なのかもしれません。でも良いんです、趣味のページだから(笑)。ではでは、酔っ払いの雑文にお付き合い頂いて有難うございました。