ラスベガスをぶっとばせ

One Foot in the EtherOne Foot in the Ether
Band of Heathens

BOH Records 2009-09-15
売り上げランキング : 197002
おすすめ平均

ツアーに明け暮れる日々を送る彼らから、短いインターバルでスタジオ盤が届けられた。プロデュースは、バンドと、オースティンの若手請負人Mark Addisonの共同名義。演奏には、バンドメンバーだけでなく、ここ最近のツアーで、サポートとして参加しているTrevor Nealonがハモンド・ウーリツァー等の鍵盤で参加している。
オープニングの「L.A. Country Blues」は、Hunter S. Thompsonへのトリビュートソングという位置付け。酒とクスリに塗れ、空を泳ぐ魚のようにフワフワとし現実感を失った生き様を描く。空虚に彩られたアメリカンドリームの終焉を、アメリカの土と風の匂いを漂わせ演奏する。
間髪置かずに始まるM2「Say」は、R&B色の香る小品。ここまでの2曲で、Ed Jurdiのヴォーカリストとしての技量にグッと惹きこまれ、3人のフロントマンの歌声が交錯するM3「Shine A Light」へと雪崩れ込む。
エフェクトをかけられたヴォーカル、空気を切り裂くようなギターソロ、呪術的に怪しく鳴り響くパーカッションが響く、ブルーズ色の濃いM4「Golden Calf」をColin BrooksではなくGody Quistの曲というのは、意外なところでした。メンバーが相互に影響を与え、ソロでは吸収出来ない物が、彼らの中に蓄積されてきたというところでしょうか。そこから一転してQuistの従来の持ち味である端正なフォークロックM5「What's This World」へと流れる辺りは、色々と考えてるんでしょうねぇ。
The Eaglesっぽい雰囲気のM8「Let Your Heart Not Be Troubled」(ストリングが入る訳ではないけど、「Take It To The Limit」を想起してしまいました)のような従来から散見されていたテイストの楽曲に加えて、もともと黒人嗜好の強かったEd Jurdiの持ち味が前面に出てきたM9「Somebody Tell The Truth」のような、6分強の長尺で、ファンク色を纏った曲が登場したりと、バンドとして新たな一面が顔を出すのは、バンドの成長による懐の広がりという感じで、今後への期待感を持たせてくれます。
作品唯一のカヴァー曲は、Gillian Welchの『Soul Journey』のオープニングを飾った「Look At Miss Ohio」を、Gordy Quistが歌う。Quistと思われる熱のこもったギターソロが格好良いんですよ。
鍵盤・ラップスティールが印象的に鳴るラストトラックの「Hey Rider」では、Love & Peace幻想を捨てきれずに、「All is not lost」の言葉と共に、平和を願う。
時として、彼らの素直過ぎる(人によっては優等生的過ぎると感じるのかな)好きな音楽への愛情が、聴き手を斜に構えさせてしまうのは、仕方がない事なのかもしれません。ただ、彼らのやっている事って、単なる旧来のフォーマットの焼き直しじゃないと思うんですよね。3人のソングライターによる才能のせめぎ合いや(本作を聴く限りではJurdiの発言権が強くなっている印象も受けないではないですが)、過酷なツアーで培ったバンドとしての演奏力、そういったギミックなしの彼らの音楽は、斜に構えていたら、何かを感じ取れなくなってしまうんじゃないでしょうかね。