Everything You Love Will Be Taken AwayEverything You Love Will Be Taken Away
Slaid Cleaves

Music Road 2009-04-21
売り上げランキング : 52805

Jimmy LaFaveと共に設立したレーベルMusic Road RecordsからリリースとなるSlaid Cleavesの最新作。プロデューサーとして複数の人物がクレジットされているが、収録曲の大半のプロダクションを担当しているのはGurf Morlixと思われます。実際、Gurf Morlix・Rick Ricahrdsコンビの演奏参加楽曲の多さが、それを裏付けてくれます。
アルバムはBilly Harveyがプロデュースから楽器演奏に至る全てを担当した「Cry」で幕を開けます。彼の描く曲が魅力的である事は言うまでもありませんが、甘く・寂し気な印象を与える柔らかい声が、その魅力を更に際立たせていると私は感じています(その声の魅力にスポットを当てたのが前作『Unsung』だと思うのですが)。正に、私の思うSlaid Cleavesの、そんな魅力が凝縮した印象を受けるのが、このオープニングトラック「Cry」です。本作のアルバムタイトルである『Everything You Love Will Be Takens Away』は、本曲の歌詞の一節から取られているというのも象徴的ではありませんか。
その他収録曲についても。Billy Bright(この人と言えば、オースティン時代のCaroline Herringの2作品に尽きるのです)のマンドリンが利いたM9「Tumbleweed Stew」。希望と共に、裏切りが充満する国に住みながら、人を信じる事・何かが変わる事を捨てきれないM10「Beautiful Thing」での、穏やかさの中に秘めた孤独と希望。そのほかにも、Adam Carrollとの共作曲や、盟友Rod Picottとの共作曲など、Cleavesの充実と共に、仲間のSSW連中の充実を印象付けるトラックが詰まっている。数曲で聴く事の出来るTrish Murphyのバックヴォーカルも、胸にグッと来るものがある。
楽曲はどれも、優しい印象を受けるが、それは楽観的ではない。かと言って、悲観主義でもない。日常にある感情を拾い集めたものなのだ。プラスもマイナスも感情が綯交ぜになっているからこそ、聴き手に迫るのだろう。
彼の音楽無しでは人生は貧しいものだったろう、貴方達がこのアルバムを聴けばそう感じるはずというStephen Kingのライナーノーツの言葉が全てだ。彼の音楽は時代や世界を変革をする類の物ではないだろう、しかし一人の人間の在り様を変える何かを持った音楽だ。